2023年9月26日火曜日

1人の絵描きとミューズ

 


どこへゆくんだい?

不安そうな目でこっちを見ている私がいった。

べつに、どこへも行かないよ。

たださ、こっちの道へは何があるか分からないから、

見てみるだけだよ。

それじゃあ、いつまでたっても目的地に着きやしないじゃない。

ほら、あそこ。あれがモクテキチ。

私が指さす先には地面にささった標識のようなものが見える。

わたしは、ふーんとつまらなそうな息を出して

そんなの、興味ないもの。と呟いた。

どうして?もうすぐモクテキチなのに。

つまらなそうなわたしは、しばらく下を見ていると、はっと目に輝きが灯り、

道の端に転がっていた石をめくり出した。

また変な事を思いついたのか、と呆れていると、

ほら、みて、こんなところにミューズがいた。と、

石の裏の暗闇を指差してわたしが言う。

ミューズ?あの、薬用せっけんの?

ちがうよ。ミューズはミューズだよ。私に伝えたいことがあるみたいだよ。

私はそっと石に近づいていき、ミューズの顔をのぞきこんだ。

ミューズの唇はめらめらと動いた。

「*%^$@%@」

言葉ではない言葉 発音 音

その音は飛んでいき私のいる空間を踊った。

白と黄色とだいだい色を混ぜたクリーム色の空間を浮遊して

ちいさな花火みたいにあたたかく弾けていく。

ほらね、おもしろいでしょう?

私のくちびるがそう言うと

紙のうえに描かれたミューズは笑った。


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